番匠は日本の森林を守ります

日本の建築技術を伝承し、環境を大切にします

第1回 《林業の大危機-1》

  • ■山林国日本の山がないている

     日本の国土は70%が山林なんです。その40%が人工林で、その44%がスギです。もっと分かり易くいうと国土の12%がスギなんです。花粉が飛ぶのは当然ですよ。終戦後に国策として植林に努力したスギ、ヒノキが伐採期を迎えているんです。しかし、今の日本の住宅は外材80%で造られているんです。その上、昭和60年代のエネルギー革命によって、薪炭という燃料が石油やガスに変わり、樽や桶などという家庭の生活用品もプラスチックになってしまった。本当はヒノキの風呂の方が健康にもいい。また酒樽や漬物樽なんかも木の方がずっとおいしいんだよ。しかし、終戦時には家を建てたくとも木材がなかった。戦争末期の乱伐で禿山になり、あわてて植林したものの、木材として使えるまでには50年から60年かかる。その間に日本の住宅産業はプレハブ住宅を開発し、木材は外材に依存するしかなかった。今日の状況を迎えるにはそれなりの理由のあったことは事実。まあ、煎じ詰めれば戦争にその元凶があったんだよ。戦争の傷跡は深いよ。戦争だけは絶対にしてはいけないな。

    ■住宅は生態系

     住宅というものは生態系なんだよ。その地域にある資材を使って建てる。それが健康にもいい。シックハウスなんてありえないんだよ。里山はその理想だったんだ。正に資源は循環して暮らしに結びついていたんだ。今、国産材が十分にある。もう一度この自然循環に戻す努力をすることこそ環境問題の解決策ですよ。山林国家である日本をもう一度見直してみなければならない。山があれれば水が濁る、水が濁れば海が濁る。魚も野菜もいい水によって育まれる。人間の体だって70%は水分、水の元は全て山にあるんだよ。昭和60年代の初めの頃には、林業就労者が45万人もいた。それが現在9万人しかいなくなった。それもその約20%の人間が高齢者なんだ。高齢者とはご存じの通り65歳以上の人間をいうんだよ。林業とは本当に年月のかかる仕事なんだ。日本政府だって手をこまねいていたわけではなかったな。昭和30年代には、植林によって森林を回復させることを目的に林業公社が全国各地に設立されたんだ。府県などから融資を受けて事業を続けてきた。しかし、伐採期を迎えた今になってみると、エネルギー革命や外材によって市場が失われてしまった。林業公社の負債は末払い利益を含めて1兆2千億円を越えているというじゃないか。住まいづくりは国産材に戻す努力が足りないんだよ。

    田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則