番匠は日本の森林を守ります

日本の建築技術を伝承し、環境を大切にします

第5回 《人の心が住まいをつくる》

  •  私は若い大工を教育する際、まず「挨拶」の大切さを教えます。近年、挨拶をきちんとできない若者が多いように思いますが、挨拶のできない人間に家はつくれません。 現場に行ったらまず挨拶する。お茶を一杯頂いたらきちんとお礼がいえる。いつも箒(ほうき)と塵取りを持って現場をきれいにする。こうした基本の心なくして家づくりはできません。宮大工がどうして徒弟制でなければならないかというと、心のつながりがもっとも大切だからです。大工への評価は棟梁への評価であり、建てた家への評価なのです。お客様から「いい大工さんですね、いい監督さんですね」とお褒めの言葉をよく頂戴いたしますが、それは建物以前に人間性を評価して下さっているからなのです。「大工はバカじゃできない、利口じゃできない、中途半端じゃなおできない。大工は義理と人情、やせ我慢。三つ子の魂百までも」これが私の口癖です。 よい建物には建てた人の心が見えるものです。私たちの世界では「気が入る」というのですが、良い建物には「気」が入っていなければなりません。大工がいい仕事をすれば左官がそれに応えるというように、心は伝わっていきます。建物は無言で建てた人の心を自然と現し評価を受けるものです。 「いい建築とは、施主を癒し、健康を守る」この言葉は数寄屋造りの名人、中村外二(なかむら・そとじ)棟梁のいった言葉です。わかりやすくいえば、私たちがいかに「気」を入れて家を造るか、その責任の重さを問うているのです。 伐採され木材になっても呼吸しているんです。だから空気を通したり、室内の水分を調節したりしてくれる。木材が生きているからこそ温もりがあり、その温もりが人間に安らぎをくれるんです。世界のどこに行っても、吉野材ほどの建築素材はないでしょう。日本の誇るべき技術であり、文化ですよ。

    田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則