吉野は杉を育成するのにふさわしい自然環境に恵まれているということが一番なんだ。土壌もいい。この地域性こそが日本の三大美林といわれている所以でしょう。吉野では室町時代末期から人口的に植林されるようになったらしい。人口林としては日本最古といわれている。最高品質の杉材を作るには、まず森の維持管理が徹底しているということでしょう。密集して植林されたあと、何度も間引きを繰り返して育成しているんだな。手を掛けているということですよ。世界一の木材には世界一の愛情が注がれているということでしょう。吉野の人たちの努力には頭が下がるよ。山に入ってみるとよくわかるんだよ。本当に美しい。真っ直ぐに伸びた杉を見ていると神秘的な力を感じるね。人間なんかとてもかなわないと思える。神々しいのよ。何時間見ていても飽きる事はない。木は不思議な力を秘めている。百年生きた木は、切られたあとも百年生きるといわれている。切られても生命力を持っているんだな。 伐採され木材になっても呼吸しているんです。だから空気を通したり、室内の水分を調節したりしてくれる。木材が生きているからこそ温もりがあり、その温もりが人間に安らぎをくれるんです。世界のどこに行っても、吉野材ほどの建築素材はないでしょう。日本の誇るべき技術であり、文化ですよ。
吉野杉をもって建てた数寄屋の住まいは経年とともに味わいが出てくる。本当に落ち着いた住まいになっていますよ。入居されたお客様の喜び方は共通していて、とにかく癒されると感謝されます。人間にとって木はもっとも身体に合う。肉体的にも、そして精神的にも健康にいいということをお客様の感想が一番に物語っていますよ。地球温暖化問題においても杉は貢献しています。一本の杉の木がどれだけ二酸化炭素を吸収してくれているか、専門の科学者が計算していますが、森林抜きにしては温暖化問題は解決するはずがありません。木は、木材になって加工されたあとも、二酸化炭素を固定し蓄積します。こんなありがたい木材について、日本人はもう一度、再認識し、そしていまや余っている国産材に着目するなら、どれだけ日本の林業が活性化するものか。外材依存の木材需要を現在の50%まで改善できるなら、瀕死の日本の林業が復活しますよ。また二酸化炭素排出量の減少に多大の貢献ができるんですよ。環境問題について、大騒ぎしている割には官民まだまだ真剣さが足りないといえるね。
田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則