番匠は日本の森林を守ります

日本の建築技術を伝承し、環境を大切にします

第3回 《永遠の伴侶 吉野杉-1》

  • ■感動の出会い

     吉野杉ほど素晴らしい素材はこの世にないだろう。なんといったらいいのかな。とにかく素晴らしい。絶世の美人、惚れて惚れて惚れ抜いてもまだ惚れる。何度会っても惚れ直すんだよ。僕にとっては永遠の伴侶だな。吉野杉との感動の出会いを越える出会いというものは、人との出会いを含めてもそうはないだろうね。もう30年以上も昔の事になるかな…初めて吉野杉のふるさとを訪ねた時の事を忘れられないね。近鉄吉野線の下市口駅に降り立ったその時、のどかな風景の中に、どこからともなく杉の甘い香りが漂ってきたんだ。恋人にでも会うようなときめきだったな。下市町は割り箸の産地でもある。駅には吉野銘木の2代目社長・貝本博幸氏が迎えに出てくれた。うれしかったね。貝本社長は偶然僕と同じ歳だったんだよ。以来兄弟の付き合いをさせて頂いております。そしてお父さんでもある元日本銘木連合会会長の貝本輝司氏にも、吉野林業のことについて勉強させて頂きました。吉野銘木の本社を訪ね、そこに貯えられた吉野杉を見て一瞬に心を奪われたな。「棟梁開眼」といってもよかった。年輪の緻密な美しさ、微妙な赤みの色合い、柔らかな肌合い、よくぞこの世にこんなにも美しい杉材が存在していたのかと思ったね。80年から100年ものなら構造材の桁はもちろん、横もの、梁、胴差もいける。そして200年ものになると、これは銘木。ムク材の天井板、腰板、長押など杢目(もくめ)、柾目(まさめ)は吉野杉ならではの表情と色合い、どれをとっても高級品だ。「うーん」と唾を飲むくらいだ。僕はこの時からというもの、吉野杉材をもって数寄屋を造ることを棟梁としての生き甲斐かつ使命と思うようになりました。日本の住まい、古くから歴史を培ってきた数寄屋造りはこうした林業にたずさわる植林技術と大工の伝統の技があいまって、できるものと思います。継承していきたいですね。

    田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則