話題の東京スカイツリーは東京都墨田区にある電波塔、高さは東京タワーの2倍近い634メートル。この高さを決定するに当たっては、先ず世界一のタワーにすること、地域のシンボルとして覚えやすい数字にしたいという意見から、日本人にとって馴染み深い「武蔵の国」(634・ムサシ)を採用したそうです。
ところで、普通に考えると、よくぞこんな高い塔が3・11の大地震や、しばしば吹きつける強風にもビクともせず聳え建っているのか不思議です。
実はこの技術こそが、我々の祖神が残した五重塔建立の時に考えられた心柱制振(しんばしらせいしん)技法なのです。五重塔はこの素晴らしい技法によって支えられています。日本人が考えたこの技法は、心柱が振子となることによって制振効果があるということです。
構造的には心柱を独立させた中空構造になっており、重心を保ったまま振子の役目を果たし、塔の先端部を支持する相輪(そうりん)まで心柱だけが一本でつながっているのです。なんと素晴らしい発想と技術でしょう。
このような祖神が伝えてきた技術があればこそ、世界に誇れる文化遺産を今日まで伝え遺してくれているのだと思います。こんな素晴らしい技術による建築は、昔から意匠バランスとも言いまして、昔でいえば「木割(きわり)」です。これらの日本特有の技術を大切にし、尚且つ最新技術を施して出来たのがスカイツリーです。
簡単に説明しますと、てっぺんに重りを置いた制振システムと、三角形を土台の原型にして、上方へ伸びるに従い徐々に円形となり、300m付近では完全な円となっているのです。このことが外観に微妙な表情の変化となって現れています。従って外観は見る場所によって変わります。一見単純に見えますが、実は極めて複雑な曲面で組み上がっているのです。わたくし流に言いますと、とても高度の規矩術(きくじゅつ)と社寺建築や数寄屋建築によく見られる、美しい自然の「反り」と「むくり」を上手に取り入れ、それを高度な技術によって作り上げたものと思います。いつかスカイツリーを見に行く時、そんな観点で見て頂けたら「なるほど」と納得されるものと思います。
結びになりますが、日本の物造り、そして日本の伝統技術、職人の技は世界に誇れる技術です。物造り人間として、スカイツリーの設計施工に携わった全ての人々に敬意を表したいと思います。最後に法隆寺の西岡常一棟梁の言葉を紹介しましょう。
「新技法は伝統技術を極めて成し得るものなり」
田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則