私は社寺・数寄屋をいくつも手掛けさせて頂きましたが、設計段階から施工に至るまで、今まで培ってきた経験と我々の数寄屋大工の祖神たちが伝え残してくれた技法を元に、お施主様の好みを十分に理解し、監修させて頂いております。一番大切なことは材料の吟味であります。大変ですが私はそれが一番楽しい…。 そして材料が決定し、施工手順が決まる。長年一緒に仕事をしてきた大工職人を始めとするそれぞれの職人さんが、私と心を一つにして作業を進めて行く。 何ともいえない緊張感である。それだけに職人たちとのコミュニケーションが大切であり、それが棟梁として最も大切なことであると理解しております。 お陰様で私は良い職人集団に恵まれていると思っております。 そして、それらの職人たちの技法により建物が仕上がっていきます。 ここまでは和服に例えますと、好みの着物が仕立てあがった段階であり、その着物に合わせた帯が大切であります。その帯こそが建築を引き立てる庭園工事であると理解しております。数寄屋の場合いは露地といいます。 庭木、敷石、竹垣、飛び石、蹲踞、その他数えきれない造園の手法があります。 その中でも蹲踞に落ちる水音、竹柄杓で水をくみ身を清める。清めた後の水を甕で受ける。 ある時にその音が琴の音色のように何とも心やすらぐ音に聞こえ、江戸の初期に水琴窟が誕生したらしい。この何とも素晴らしい日本人の繊細な音に対する文化に私は感動いたしました。江戸時代の人々はこんな音に対しての文化が存在していた。私はこの水琴窟を江戸水琴窟と命名し、寺院の庭は元より、一般住宅、数寄屋の店舗、セレモニーホール、公共の施設等に普及して心のやすらぐ音を楽しんで頂きたいと思います。更には海外に、数寄屋建築や日本庭園を含む江戸水琴窟を広めていきたいと思っております。
先駆者の名言 「 路地これ数寄屋なり 」
田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則