建築儀式

儀式は建築と
精神文化の
結びつきを象徴する
大切な営みです

日本建築伝統儀式とは?

平成元年、五代目棟梁から六代目を襲名させていただいた時に、上棟式の祝詞と式典の祝い道具の造り方、式典の進行など詳しく伝授いただきました。これは棟梁にとっては大事な心得の一つで、施主様にとっては、社寺は数百年に一度、家は一生に一度、あるかないかの大切になる行事です。人間も儀式で始まり、儀式で終わる。建築も儀式で始まり、儀式で完成する。私は儀式の重要性を認識し、「宮大工古式伝統保存会」を設立して、有志と共に研究・勉強を重ねております。

伝統儀式の大切さ

近年の住宅造りにおいて、地鎮祭は実施されている一方で、上棟式・新築祝は半数近くが行なっていない状況にあります。
家を建てる人のお考えが、変わってきたのでしょうか。上棟式には家族・親戚・ご近所の方々も参列して、家が出来ることを祝い、工事請負業者は完成まで工事を安全に執り行うことを誓い、棟梁が祝詞を読み上げ、安全祈願と家に火災や災害が及ばないよう、みなさんで祝っていました。しかし、最近では地震による倒壊や、津波や大雨で家が押し流され、突風や竜巻で家が巻き込まれて倒壊したり…と、何かがおかしくなっているような気がいたします。何か大切なものを忘れているように思えてなりません。
昔から日本では地鎖祭・上棟式・落成式をなぜ大切に行ってきたか、もう一度振り返っていただき、家に対しての感謝と考え方を、建築業者も施主様もお考えいただきたいと存じます。

伝統建築儀式

地鎮祭

地鎮祭は工事着手前に行う祭式で、土地の神や守護神をまつり、敷地の穢れを祓い清めます。建設工事に携わる人たちが、安全で事故のないように、匠の力を発揮して無事に竣工し、永久のご加護をお祈りする祭式です。
主に施工主ご家族、設計士、請負業者が出席して、土地の祓いと工事着工にあたって安全を祈願します。

地鎮祭

地鎮祭の心得(一般住宅)

住宅を依頼する建築主様(お施主様)・設計者・請負業者が完成まで一心同体となり、設計に基づき、無事故無災害で技術を発揮して、お施主様にお引渡しすることが大切なことと考えます。当日は施主様に開式30分前に来ていただき、神職をはじめとする会社の出席者の紹介と席順の説明、簡単に式典の概要確認と参加儀式の作法を、神職より説明いただき開式5分前に着席いただきます。
儀式は厳粛に執り行うことが大切です。
※地鎮祭は地方、土地の宮司様、お施主様の宗教によって、異なる箇所があることをご承知おきください。

地鎮祭 式次第
請負業者と打ち合わせ事項

上棟式

上棟式においては、昔から大工の棟梁が斎主を務めることがほとんどです。五代目棟梁からは『式典は邪念なく家を作る思いと、施主様の思いをしっかり神に伝えるのが棟梁の心得だ。中途半端な気持ちで上等式典はしてはならぬ。良く覚えておきなさい。』と教えていただきました。棟梁として百回以上数多くの上棟式典の斎主を務めさせていただきましたが、式典を重ねるごとにお施主様とのご縁と仕事の責任の重要さを感じる次第です。

上棟式祭壇
上棟式祭壇

上棟式の心得

契約の時点にて、地鎮祭および上棟式の日程を定めます。
早めに六曜の吉日を選定し準備をすること。ただし、大安吉日であっても三隣亡の日にちは控えるべきとされています。昔は上棟式は盛大にお祝いする式典でしたが、現在は簡略化されています。しかしその中でも、散餅・散銭の儀があり、家ができる喜び、感謝の気持ちを込めて儀式に参加していただくことが大切です。家の役割は雨、風を凌ぐだけでなく、住む人全員を見守り、健康はもちろんのこと家族の絆を作ることです。上棟は家の柱を始めとする構造物が組み立てられ、最後に屋根の一番高いところに棟が上がることを「上棟」と言います。上棟式は人生の中で大事な慶事であり、建築主、請負業者が心一つになり祝う儀式、安全祈願です。

先ずは祭壇の脇上に仮棟を設け、棟木の中心を白紙で巻き、棟縛りを三幣に順次三箇所、麻で結びつけます。そして三幣の祭神は、 真ん中に『天八意思兼命』、 右に『手置帆負命』、左に『彦狭知命』、そしてこの外に『三玉女星神』を祀ります。三幣の前に祭壇及び机を設け、三幣の右に棟打ちの槌を置き、左に指金・ 墨つぼを置く。そして神撰物は、 塩・米・水・酒・昆布・魚・野菜・季節の果物・鏡餅などです。投げ餅、投げ銭は感謝の意を込め祭壇机に奉納した上 で、棟梁がお酒• お水の蓋を取り、棟縛り三箇所に塩・米・水・酒を供え身曾貴大祓を奏上します。

身曾貫大祓
身曾貫大祓(みそぎおおはらい)

2.四方固めの儀

祭壇に奉納してある、唐櫃(切麻散米)と振幣束(大麻)により、棟梁と脇棟梁が協力して四方を固めます。
最初に棟梁が切麻散米をした後に、脇棟梁から振幣束を受け取り、棟梁が大きく『水』という字を書くように振幣束を振り、四方に対して祓い言葉『一切成就祓給清給』と唱えて固める、棟梁ならではの儀式であります。

四方固めの儀
四方固めの儀

田子家代々の棟梁から伝承された祝詞を五代目棟梁が直筆で書き、私が六代目を継ぐときの儀式の中の一っとしてその祝詞を頂き、上棟式棟梁として斎主を務める心構えを厳しく伝えて頂きまし た。お陰様で、お施主様からは「古式に則った儀式を有難うございま した」と、お礼を頂きます。
上棟式の斎主を務めます時は、上棟を迎えたお施主様の家が永く久しく、安らけく穏やかに栄えますように、心を込め奏上させていただきます。

祝詞奏上
祝詞奏上

槌打ちの儀は棟梁が声高らかに掛け声をかけて、脇棟梁が 『塵』と応え、小声で『土 金』と唱え一つ打つ、これを三つ打つのが通常の槌打ちの儀です。 私はこの槌打ちの儀と合わ せ、棟梁の寿ぎ唄を奉納してから連動して槌打ちの儀に入ります。

槌打の儀
宮大工の寿き唄

5.散餅の儀

散餅も地方によってお餅の形が異なります。東京・関西などは丸餅ですが、群馬では四角の切り餅で、祭壇へのお供物は別に三才餅、五行餅になります。最近の住宅上棟では供え餅は二段重ね、撒き餅は切り餅を三枚重ねで藁で縛ってあり、それを投げます。最初に三幣の祭神に納めた、三組のお餅を施主の奥様に箕で受けていただきます。これは奥様が留守をしっかりと守り、火事をしないようにという意味です。

【棟梁の投げ餅の唱え言葉】
「水におぼれず 火にやけず 七難そく滅し給う申す」
棟梁が唱えて箕に一つ一つ投げ入れます。

散餅
散餅(なげもち)

6.散銭の儀

散銭の儀では5円硬貨を半紙でおひねりして、たくさん作り投げます。「皆さんのご協力のお陰様で家を建てることができました。ありがとうございます。」と感謝の気持ちで、棟梁の唱え言葉の後、登壇しているみなさんで一斉にお餅と一緒に投げます。最近はお子さんにも喜ばれるよう、スナック菓子も投げるようです。

【棟梁の散銭感謝の唱え言葉】
「金銭 銀銭 まこうど まこうど なを利得 聞こえけん」

散銭
散銭(なげせん)

綜合礼式の龍柱(伏龍式)は、社寺建築及び特殊な建築で行う儀式で、地曳・伏龍・釿始・清鉋・立柱・上棟の礼式を一つに綜合して行う礼式です。正式には地鎮祭、水盛が済んだ後、次に立柱礼式をするのが順序です。春夏秋冬によって柱を立てる位置が異なるのが正式で、春は東、夏は南、秋は西、冬は北へ立てるのが正しいとされています。
30年間、伏龍式を研究・再現しており、宮大工古式伝統保存会を立ち上げ、これまでさまざまな儀式に参加させていただきました。1993年には米国アラバマ州・バーミンガム市のお茶室『燈心庵』を建設するにあたり、日本の文化として伏龍式を執り行いました。当時のアラバマ州のメディアに報道され、建設を契機に交流が深まり、バーミンガム市と前橋市は友好親善姉妹都市となりました。海外で文化的建築物を建設するにあたっては、技術も大切ですが、日本建築伝統儀式も文化交流として欠かせないと感じた次第です。

清水寺三重塔落慶法要

今から1400年以上前の飛鳥・白鳳時代に、仏教と共に朝鮮半島や中国大陸から移住した工匠によって、仏寺を建てる技術が日本に伝わって参りました。そして、現在にも残る仏寺建築はここから始まり、おそらく日本建築の寺院関係儀式もこれに伴って始まりました。私は、35歳の時に、京都清水寺三重塔落慶法要の式典において、宮大工の儀式を棟梁として奉仕させていただいました。
昭和62年に行われました清水寺三重塔の修理の中心は、建設当初の華やかな色彩を調査し、内外ともに色彩を再現するものでした。350年振りの解体修理が見事に完成して、当時の美しい姿に蘇りました。

清水寺三重塔落慶法要
清水寺三重塔落慶法要の様子

未来へ繋げたい、日本建築伝統儀式

これまで数えきれない建築物の起工式、上棟式、落慶式を執り行わせていただきました。
特に清水寺三重塔の落慶、何よりアメリカ アラバマ州 バーミングハム市で、燈心庵の建立時の伏龍式、上棟式を現地の市長や日本国領事、バーミングハム関係者の協力のもと、儀式をさせていただきました。また落成式には両市の市長、関係者とアトランタ日本国総領事も出席され、盛大に茶会が実施されました。その時に全員から「田子ありがとう」とお言葉をいただき、目から熱い涙が出たことを鮮明に覚えています。日本には世界に誇れる技術・儀式・文化が沢山あります。それらを勉強して体験し、身につけた技・儀式に対する思いを次世代へ繋げ、襷を渡すことこそが、これまでご指導いただいた方々への恩返しとなります。そうした想いから、日本建築伝統儀式を未来へ継承していきたいと考えております。

日本建築伝統儀式
日本建築伝統儀式