番匠は日本の森林を守ります

日本の建築技術を伝承し、環境を大切にします

日本建築伝統儀式

 平成元年に、五代目棟梁(父光一郎)から六代目を襲名させて頂いた時に、上棟式の祝詞と式典の祝い道具の造り方、そして式典の内容と進行の順序などを詳しく教えて頂きました。これは棟梁になる大事な心得の一つで、施主様にとっては、社寺は数百年に一回、家(住宅)は一生に一度、あるかないかの大切な記念になる行事であり、しっかりと内容を理解して儀式を執り行うことができるように習得し、心のこもった式典が出来なければならない。しっかりと勉強して精進しなさいと言い渡されました。
人間も儀式で始まり、儀式で終わる。建築も儀式で始まり、儀式で完成する。海開き・山開き、オリンピックもパラリンピックも、相撲も、儀式から始まり儀式で納まる。私は儀式の重要性を認識し、「宮大工古式伝統保存会」を設立して、有志と共に研究・勉強をしております。
地鎮祭は、寺院の場合は住職さんにして頂き、神事の場合は宮司さんにお願いして執り行っております。仏事・神事のいずれに致しましても、大局をお話しいたしますと、「日本国民が天皇を中心に栄えて、国民が健康で幸福な暮らしができますように。大きな災難、被害が起きないように。そして日本人の主食である米をはじめ五穀豊穣でありますように。まず神様をお祀りして、儀式にてお願いすることが大切なことだと思います」と私がお世話になっております、多賀神社の河村宮司さんとのお話の結論でありました。そのような考えから、二千年前に出来たのが神宮だとされています。

◆神宮(伊勢神宮)

 伊勢の神宮(正式には「伊勢神宮」ではなく「神宮」)、御祭神は皇祖神(こうそしん)であります。 天照大御神をお祀り申し上げる皇大神宮「内宮(ないくう)」と、「衣・食・住」といった生活に深い御神恩のあります、豊受大御神(とようけのおおみかみ)をお祀り申し上 げる豊受大神宮(とようけだいじんぐう)「外宮(げくう)」の両宮に、別宮、摂社、末社、所管社から合わせた125社からなるそうです。

◆式年遷宮

 天照大御神(あまてらすおおみかみ)が伊勢に御鎮座されましたのは、今から二千年の昔。以来、皇室を中心として、広く国民の信仰を集めて、今日に至っております。
神宮では、今から千三百年前の持統天皇4年(西暦690年)より、二十年ごとに、社殿や御装束・御神宝の一切を、新しく造り替えて来ました。これを式年遷宮(しきねんせんぐう)といいます。このお祭りは、大御神(おおみかみ)様の高き尊き御神恩が、益々豊かになることを祈り、その御神恩をいただいて、国の若返りと永遠の発展を願う大切な祭りだそうです。このような資料を頂戴して、我々の祖神の信仰と祭事(まつりごと)の大切さを、改めて知った次第です。

◆式年遷宮のお祭りと行事

 平成17年に式年遷宮の最初に執り行われる祭儀「山口祭(やまぐちさい)」からはじまり、平成25年の「御神楽(みかぐら)」まで、32回ほどの祭事(まつりごと)があります。皆さんにもわかりやすいよう、主だった祭儀を幾つか紹介いたします。

平成17年

・木本祭(このもとさい)
新宮の御床下(おんゆかした)に、心御柱(しんのみはしら)の御用材を伐採するにつき、御木(おんぼく)の木本(このもと)に坐(ま)す神を祭ります。

平成18年

・木造始祭(こづくりはじめさい)
御造営の開始に際して、作業の安全を祈り行われる祭儀です。

平成19年

・御木曳行事(おきひきぎょうじ)(第二次)
御用材を両宮に曳いれる盛大な行事。期間中、伊勢の街は勇壮な掛け声と木遣音頭で包まれます。

平成20年

・鎮地祭(ちんちさい)
新宮を建てる新御敷地で執り行われる最初の祭儀で、御造営作業の安全を祈り、新宮の大宮地(おおみやどころ)に坐す神を祭ります。

平成24年

・立柱祭(りっちゅうさい)
正殿の建築の初めに際し,御柱を立て奉る祭りです。
・上棟祭(じょうとうさい)
正殿の棟木を上げる祭儀です。
・甍祭(いらかさい)
新殿の御屋根の葺き納めの祭儀です。

平成25年

・洗清(あらいきよめ)
新殿竣功にあたり、殿内を洗い清めます。
・後鎮祭(ごちんさい)
新殿の竣功に際し、大宮地(おおみやどころ)の平安を祈ります。
・御飾(おかざり)
遷御(せんぎょ)当日、殿内を装飾して、遷御の準備をします。
・遷御(せんぎょ)・大御饌(おおみけ)・奉幣(ほうへい)・古物渡(こもつわたし)・御神楽御饌(みかぐらみけ)・御神楽(みかぐら)
天皇陛下の遷御(せんぎょ)の後、神宮に宮中の薬師(やくし)を差し遣わされ、御神楽(みかぐら)および秘曲をご奉納になります。

◆建築の伝統儀式

 今思うに、社寺建築では、現在も儀式を大切にしておりますが、最近の住宅(家)造りにおいて、地鎮祭(じちんさい)は大半の方々が執り行っておられますが、上棟式、新築祝(らくせいしき)は、半数近くが行っていないのではないでしょうか。これはなぜかと考えてみました。
家を建てる方のお考えが、変わってきたのでしょうか。土地から探す人、新しく建て替えする方と様々ですが、我々の子供のころは、あそこの家の上棟式は何日の何時頃、というようにご近所にふれられ、子供たちが集まり、お餅やお金を拾いに来ておりました。このような情景を、ご年配の方々なら経験がおありだと思います。つい最近までは、上棟式には家族は勿論のこと、親戚・ご近所の方々も、皆さんで家が出来るのを祝い、工事請負業者の方々は、完成まで工事を安全に執り行うことを誓い、棟に祭壇を設(しつら)えて祀(まつ)り、棟梁が祝詞(のりと)を読み上げ、安全祈願と建てる家に火災や災難が及ばないように、お施主様の家系が長く久しく安らかに栄えますようにと、ご祈願申し上げ、皆さんで祝っていました。これからもう一度、家づくりのお考えを、お施主様と業者も考え直す時期が来たように思います。
最近では地震による倒壊や、津波や大雨で家が押し流され、突風や竜巻で家が巻き込まれて倒壊したり、また、大雪で押し潰されたり。この十年こんなことばかりで、何かがおかしくなっているような気がいたします。何か大切なものを忘れているように思えてなりません。
まずは、建築の儀式について、住宅の地鎮祭から共に考えていきましょう。地鎮祭・上棟式・落慶式の考え方、家の仏壇・神棚の位置などの基礎的な考え方等について説明して参りたいと思います。

 次回に続きます・・・。

宮大工古式伝統保存会 会長       
田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則

月刊 住宅ジャーナル 2017年2月号(VOL99)に掲載

このページの先頭へ