前回のご説明で、日本は天皇を中心に栄え、国民が幸福な暮らしができますように、大きな災難・災害が起きないように、そして日本人の主食である米を始めとする食物が五穀豊穣でありますようにと、約二千年前に神宮(伊勢神宮)ができ、永遠の発展を願うため千三百年ほど前から式年遷宮が始まったとお話申し上げました。これは現在でも国を挙げて祭りごとが行われております。しかしながらこの十年、東北を始めとする大地震、大津波、火山の噴火、観測史上にないような大雨があり、河川が決壊して大洪水が発生し、さらには最近例にないような台風、竜巻、大雨により、数多くの山が崩れ土砂が流れ出し、これらの災害により亡くなり、怪我をされた
方も測り知れない数であります。そして数多くの家がこれらの災害により倒壊し、神社、寺院、公共の橋、道路、建物が崩れたり、国といたしましても、大変な被害が出ております。そして忘れてはいけないのは放射能で、作物を育てる土壌、山の木々、海、川までが汚染され、作物も大変な被害が出
ております。私には、これらの被害が単なる温暖化だけのこととは思えません。昔の人は、今みたいに科学では割り出せない時代であることから、災害、災難を防ぐため神に祈りを捧げ、難に遭わないように願ったのだと思います。そして何より、自然の恵みに感謝して生活してきたのだと思います。その感謝の表れが神宮であり、内宮、外宮であると思います。二千年も継続してきたこのような祭事の文化である神宮は、今も日本人の心の文化として大切に引き継がれております。それが、こと住宅産業におきましては、伝統的な建築工事の祭式がここ二十年程前から消えて行きつつあります。これはどうしてでしょうか。
昔から日本では地鎮祭(じちんさい)・上棟式(じょうとうしき)・落成式(らくせいしき)をなぜ大切に行ってきたか、もう一度振り返って頂き、家に対しての感謝と考え方を、建築業者も施主様もお考え頂きたいと存じます。もし原因が祭式に掛る費用のことだとしたら、否そんなことはないと思っております。
祭式の意味と家に対する考え
を、共に勉強して頂けたら幸いです。まずは地鎮祭からお話申し上
げます。
日本建築伝統儀式
◆地鎮祭(とこしずめのまつり)
工事着手の前に行う祭式で、いろいろと呼び名がありますが、一般的には地鎮祭(じちんさい)、地祭りと申し、工事着手前に土地の神や守護神をまつり、敷地の穢(けが)れを祓(はら)い清めて、これから始まる基礎を始めとする建設工事に携わる人達が、安全で事故のないように、匠の力を発揮して無事に竣工し、永久(とこしえ)のご加護をお祈りする祭式です。主に施主様ご家族、設計士、請負業者が出席して、土地の祓いと工事着手にあたっての安全を祈願する祭で御座います。ただし、最初にお断り申し上げますが、地鎮祭にも色々あります。社寺仏閣・公共工事・工場・社屋(ビル工事)などの大型地鎮祭は別にいたしまして、こと一般の住宅の地鎮祭に於いての祭式について、お話をさせて頂きます。また、地方によっても、その土地の宮司様によっても、多少の違いがございますので、よろしくご理解のほどお願い申し上げます。お施主様の宗教によりましても多少違いがございますので、ご承知おきください。ただし、基本的な願い事には違いが無く、冒頭に申し上げた願いに変わりはありません。
先ずは式次第に沿ってご説明申し上げます。
◆地鎮祭に対しての心得
住宅を依頼する建築主様(お施主様)・設計者・請負業者が完成まで一心同体となり、設計に基づき、無事故無災害で技術力を発揮して、お施主様にお引渡しするのが大切なことと考えます。
先ず設計が終り、見積もりをして契約をして、工程表に従い、工事着工日を三者で協議して決定いたします。次に日取りを取り決めし、当日斎主をお勤め頂く神職と、日時の確認をして決定する。その時の注意事項を申し上げます。
請負業者とお施主様との打ち合わせ事項
1.日時については六曜の吉日を選定して決める、その中でも大安・先勝・友引などを選定して、一般的には午前中とする。
2.お施主様に当日の費用と出席頂く方の人数と関係、肩書の確認をし、お名前の読み方をお聞きしてひらがなを振っておく。
3.昔は神職様お礼金と、供え物については、お施主様にご用意頂きましたが、最近は初穂料のみお願いすることが多いです。
4.当日の地鎮祭の式次第に沿って、開式から閉式までの流れと意味を説明申し上げ、ご起立頂くこと、頭を下げること、斎鎌(いみかま)・斎鋤(いみすき)・斎鍬(いみくわ)の地鎮の儀を説明します。地方によっては施主の行う役割が違うため、神職と相談の上ご説明すること。
5.玉串奉奠の作法と、施主代表とその他参列者の順番とお名前の確認をしておくこと。
請負業者の注意点
1.お施主様と斎主との打ち合わせに漏れがないか確認すること。
2.当日の天気予報を確認し、前日に図面に基づき家の建つ位置を確認しておくこと。そして敷地の草刈り、ごみなどをきれいに片づけておくこと。
3.当日の予報が晴れの場合でも出席人数に応じたテントを張り、式典場所に砂をきちんと敷き込み、式典に必要な竹、砂を前日に用意しておくこと。
4.地鎮祭についてのミーティングで、司会者を含め参加社員と役
割分担を決め、落ちのないリハーサルを行うこと。そして式典に必要な道具、神職に持参して頂く式典用具の確認を再度行うこと。
5.式典でご挨拶頂く方へ前もって丁寧にお願いし、了解を頂くこと。
当日は施主様に開式30分前に来て頂き、神職を始めとする会社の出席者の紹介と席順の説明、簡単に式典の概要確認と参加儀式の作法を、神職より説明頂き開式5分前に着座頂き、儀式は厳粛に執り行うことが大切です。
※会社の姿勢が表に出る大切な最初の仕事となります。
今回は地鎮祭の心得をお話いたしましたが、次回は式次第に則り説明申し上げます。
宮大工古式伝統保存会 会長
田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則
月刊 住宅ジャーナル 2017年3月号(VOL100)に掲載