番匠は日本の森林を守ります

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未来に伝えたいさしがねの技(第14回)

◆さしがねの技(規矩術)の伝承

 未来に伝えたいさしがねの技(規矩術)と題して既に13回の掲載をさせていただきました。
今から1400年ほど前、聖徳太子が日本に仏教を伝え、さらにその御本尊様の仏像をお祀りする建物である仏寺を建てる技術が、仏教と共に朝鮮半島や中国大陸から移住した工匠によって伝えられたと言われております。前回お話し申し上げましたように、このころから「さしがね」が創られ、規矩術が始まったと思います。
現在の日本において国土の68%が山林であることから、当時ではおそらく国土の8割方が山林であったのではと思います。
このころの建築はすべて木造建築であり、気候からいっても日本は世界に誇れる山林大国であり、四季のあることから、建築には相応しい木材が当時あったことでしょう。そうして日本建築=木造建築として発展し、様々な技術が発案されてきたのだと思います。
寸法の単位、尺竿、さしがね(矩)、墨、墨差し、墨つぼ、糸(規)、重り(縄)、水平器=水盛り管(準)などが出来、大工道具、斧、のこぎり、槌、のみ、などが当時の職人の知恵で出来ていったと想像されます。

 従いまして、現在の「さしがね」や規矩術も1000年以上前の祖神が苦労に苦労をかさね、様々な技法を考え編み出し、現在まで私たちに襷を渡して伝え残してくれたと思います。
田子家のたった200年の襷でも、時代時代の事情と棟梁の考え方、支えてくれた数多くの人の助言、ご指導、ご支援があったからこそ、現在まで伝え残すことができたということに感謝申し上げます。規矩術は奥が深いです。 此れからも今回の連載を機に初心に戻り規矩術を勉強してまいります。

さて、結びになりますが、私の祖神が残してくれた規矩術の極意と口伝をご披露させて頂き、規矩術編を一区切りとさせて頂きたいと思います。

規矩術の極意は「天地人」「規矩準縄」であります。


私なりに「天地人」「規矩準縄」を説明させていただきます。 一般的には『天の時を得ても地の利がなければうまくいかない、地の利を得ていても人の和がなければうまくいかない』というのが「天地人」の意味と思いますが、これを建築的に申しますと、

「天」は


大自然の様々の統計を熟知して考える、東西南北の位置を確認して設計に入る。台風は主に何処からきて、どの方向に強い風が吹くか、雨の量はどのくらいか、雪の量はどのくらいかなど確認して、山はどの位置に、沢はどの位置に、川はどの位置に、水はどの方向に流れているか、海はどの方向でどれくらい離れているのか熟知すること

「地」は


その地の歴史、文化、風習を知る。その土地の木材を中心にした自然素材を知り建築に取り入れる。そして最も大事なことは地盤の質を知り地の耐力を考えることが大事とし、地の利を活かす。

「人」は


天の時を得ても、地の利を得てもこれを行う人々の力、人の和がなければ何もできない。昔から、心・技・体と申しまして、技術があっても心のないものに体(物)はできないと言われ、心ひとつに纏めることが大切と言われております。そのまとめ役、リーダーが棟梁でありそれは役職でなく人間の器であると思います。

 従いまして、大自然の出来事をよく理解して、木割を熟知し、木の癖を読み、規矩準縄を基本にして技能を発揮し、棟梁を中心にして心ひとつに物つくりをする。これこそが規矩術の極意であり、どんなに時代が進もうと、コンピュータの時代が来ようと、「天地人」、「規矩準縄」は無くなることはありません。

建築の口伝
「新技法は伝統技術を極めてこそ成し得るものなり」


このお言葉はお世話になった西岡常一棟梁から頂いた口伝です。
長きに亘り規矩術編を有難うございました。

田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則

月刊 住宅ジャーナル 2017年1月号(VOL98)に掲載