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未来に伝えたいさしがねの技(第9回)

≪棒隅軒先茅負の上端留め向こう留め墨の出し方≫

 茅負上端留め向こう留めの求め方が規矩術には色々あります。最近は1図のように勾・殳・玄法で説明しておりますが私はあまり使いません。殳を基本1とした方程式ですので、私は呼び名として使用しておりますが、基本的には展開図法、小平起こし法、木の身返し法(木幅法)等を使用しております。今回は茅負上端留めと成の角度(向こう留め)について、三種の墨の出し方を解りやすく図面解説したいと存じます。  1図は4寸勾配で勾・殳・玄法による墨の仕方と木の身返し、2図は勾配を5寸にして、良く角度の違いが解るように展開図法、小平起こし法、木の身返し(木幅法)等の方法も理論的に正しいかを説明いたします。どの手法をお使い頂いても正しい方法であり、良く理解して頂ける規矩術であります。昔は様々の手法を用いて現場に役立てたものです。数百年も前、ソロバンもなく割り算も掛算もない頃、昔の大工さんは何度も苦労に苦労を重ね規矩が生まれたと思います。今回の茅負上端留めの様々な角度の出し方が理論的に一致しており、どの手法でも正しいことが良く理解して頂けると思います。
社寺や数寄屋の場合反りやむくりが多いため1図、2図のように実際の屋根勾配の角度に実寸法で部材寸法を入れ実寸型板を制作して使用材に墨を付けております。従いまして広い原寸場が必要なわけです。特に軒先の組手、妻手破風の原寸は実寸型板に限ります。

≪第1図の説明≫

 茅負、裏甲、そして鼻隠し、淀など垂木勾配なりに転ぶ上端留め及び向こう留めの展開図法と勾・殳・玄法による求め方さらに木の身返しを説明いたします。
1.上端留め、向こう留め、勾・殳・玄法
 先ず4寸勾配の基尺を1尺とした基本図を書き垂木上端転びなりに茅負を乗せ上端幅4寸とし成3寸と取り転びB~B’を求めC~C’を求めB’~C’を結べば上端留めとなり勾・殳・玄法では長玄の返し勾配となり、殳と玄(のび)でも同じ角度となります。A~A’を求めB’~A’が向こう留めとなります。勾・殳・玄法では向こう留めは中勾の勾配となります。
2.木の身返し(木幅法)
 B’~Dに平勾配を引き渡し茅負上端幅を平勾配なりに④と定め矩をまくとC’の点が求められます。
 この図のように全てを理解したうえで昔の大工さんは木の身返し法を良く使用いたします。この場合、木取りの正確さが求められます。

第1図

≪第2図の説明≫

 垂木勾配5寸なりに転ぶ茅負の展開断面図を上部に描き、茅負上端のB点~ 点より1尺基準5寸勾配の小平起こし法にて屋根の平面積と伸びの面積を作図し、型板を作り茅負上端留めと向こう留めの展開図法、小平起こし法、木の身返し法(木幅法)の角度の求め方と関連性、及び理論を理解して頂きたく、解りやすく作成いたしました。
1.茅負上端外面B点から垂直に基点B’を求める。B’~㋑に桁方向地の間1尺と取り、㋑~㋺に垂木方向1尺と取る、そして隅木地の間B’~㋺を求める、㋺から垂直に勾配5と取り㋩と定める、そして㋩~㋑を垂木実長とする(延び)。㋩~㋑の長さ(垂木実長)で垂木方向の延長線㋭を求めB’~㋭を引き渡すと隅木実長となりB’‐㋑‐㋭は屋根の伸びの面積となります。
2.従いましてB’~㋭の隅木実長線上の垂木方向に配付け垂木実寸上端幅を入れますと㋬は配付け垂木型板となり桁地の間方向線上に茅負上端幅を入れますと、㋣は茅負上端留め型板となります。そして茅負成幅を定めますとA~A’が定められB’~A’は向こう留め型板となります。
3.さらに木の身返し(木幅法)はB’~Dに5寸の平勾配を引き渡し、勾配なりに茅負上端幅B’~④と取り、垂直に上げるとC’となりB’~C’と同じ角度となり、上端留めが求められます。B’から茅負成の幅を①と取り①‐②‐③‐A’と矩をまくと茅負A~A’の点と同様になり、向こう留め角度A’~B’の角度となります。
4.さしがね使いでは、地の間1尺と垂木の実長(11.180延び)を二分の一矩にして5寸と5.59となり、長いほうで墨をすれば配付け垂木の角度、短い5寸で墨をすれば茅負上端留めとなります。
5.向こう留めのさしがね使いは、垂木の実長(11.180)と勾配5で向こう留めとなります。1尺を基本とした場合は、向こう留めは中勾の勾配となり1尺と中勾(4.472)となり同角度となります。

第2図


田子式規矩法大和流六代目 棟梁 田子和則

月刊 住宅ジャーナル 2016年8月号(VOL93)に掲載